RUNだむ日記【Returns!】

RUNだむ日記は、2012年にサービス終了した北国tv.でのブログ。新作は、RUNだむ日記【+Plus!!】で。

くりやま100キロウルトラ遠足5

エイドは延べ20カ所あり、スタートとゴールには必要ないから、平均すると約4.5キロごとにあるはずだ。しかし、そうはキチンと設置できるわけはないので、短い区間は3キロ足らず、最も長いところは6キロを超えることになる。その最も長い区間が、先ほどの南幌町・三重湖公園エイドから次の長沼町・第七区会館前エイドまでのここである。6.3キロも空いているのだ。

 

その長い区間の絶妙な中間ポイントに、じろーさんエイドは避暑地のオープンカフェのように開店していた。夏の日差しを遮る何物もない炎天下、そのエイドは僕だけではなく、多くのランナーを癒したことだろう。南幌の灼熱陽炎ロード(おおげさ)をぼおっと走りながら「ああ屋台で氷イチゴ売ったら150円×220人だとして、33000円の売上げだなあ」などと、およそボランティア精神のカケラもないことを考えていたとは、口が裂けても言えるわけがない。補給と柔軟、ストレッチを済ませ、じろーさんエイドを出発する。さらに前へ、その先へ進み、そしてゴールを目指すのは、僕にとって最低限の恩返しなのだ。

 

そのまままっすぐ走ると、まもなく長沼町に入る。やがて第七区会館前エイド(64.3キロ)があり、そこでも補給。とにかく公式エイド、私設エイドのほとんどに立ち寄る。ドリンクはがぶがぶ飲まないよう気をつけ、必ず飲んだ。噛める給食があれば必ず少量でも食べた。なにしろ初ウルトラだから慎重なのだ。

 

しばらく行くと、前方から黄色いウエアをチラチラさせてOgamanさんが走ってきた。手を振って応える。この先の交差点で応援隊が待機しているのだ。お迎えのひと言ふた言の軽い会話が楽しい。恵庭栗山線と交わる交差点の角には、もちろん赤と黄色の幟が立っている。

 

道路を挟んで前方を見ると、こちらに向かって走ってくるランナーがいる。あれ、どっちに走るんだろうと言うと、指さされたのは左側だった。四角く5キロくらい一周してまたここに戻り、今度は右側つまり長沼の市街地方面へと向かうのである。「ここはショートカットして(5キロは省いて)いい?」と言うと、誰かに「いいよー、どうぞー」と言われた。そんなことできる分けはない。諦めて(?)コースどおり走り出したのだった。自分の足が遅いせいだろう、距離が長く感じられる。いつまでたってもコースの方向を示す看板(といっても小さい)がなかなか見えない。

 

不安になりかけた頃、ようやく見つけて右折。さらに不安になるほどまっすぐ走ってから右折。そして仲野農園前エイドに辿り着いた。ここでは、リンゴジュースを飲むようにと、予めこうめ指示があったので、美味しくいただく。エイドの若者と記念写真を撮ってから出発した。

 

コースは裏の果樹園の中を通る。その途中に70キロ地点があった。3時53分だった。もうすぐスタートしてから11時間が経とうとしている。ペースはかなり落ちていた。キロ9分をとうに超えた。一般道に出てすぐに、後ろからakkun、まゆちゃんの車に並ばれた。例によってあまりに僕が遅いので、様子を見にきたのである。その後いったん車は去った。コース上のところどころ、いやあちこちで応援してくれていたのはとし坊さんだったが、ここでも見かけた。すると少し前を歩いているのが女房なんだと教えてくれた。さっそく追いつきご挨拶をして、先に行かせてもらった。

 

そして、あらためてまゆちゃんが今度は自転車でお迎えに来てくれた。たらたら走る僕に合わせて並走してくれる。おしゃべりしながら、やがてやっともとの交差点、応援隊ポイントに戻った。そしてひと休みし、長沼市街地方面へと向かうのである。

 

マオイゴルフ場公園前エイド(75キロ)を経て、延々と続く直線道路をひたすら進む。ここは試走で走っているので、その嫌になる長さは脳に刷り込み済だ。おかげで諦めにも似た気持ちで耐えるしかない。

 

おおひろさんがまた伴走に来てくれた。ヒマだったので、とっても助かった。札夕線に出たところを左折し少し行くと79.3キロエイド。さらに進むと80キロ地点だ。通過は5時34分。Ogamanさんも馬追名水からまたまたお迎えランで来てくれた。かずきさんエイド(81.3キロ)が見えてくると、さらにnaoさんとその友人の若い女性二人が走って出迎えてくれた。思わず二人を抱きしめようと思ったけれど、かろうじて自制した。だいいち、両手に花束を持ったことなど記憶にない僕のことだ。どうしていいか分からない。しかもトドメは、かずきさん、はるかさんの可愛いらしい二人の娘りさちゃん、あるとちゃんのお迎えだ。塩飴まで手渡してくれた。

 

もちろんここにも幟は届いていたし、大勢の方が集まってくれていた。Kuriさんに用意したというビールもごちそうになり、おにぎりなどもいただいた。おいしかった。僕が遅いせいで、こんなに遅くまでエイドを開いていてくれてありがとう。本当に申し訳ない。もう6時だ。いつまでも休んでいるわけにはいかない。僕にはまだ目指すゴールが先にあるのだ。「ゼッタイ完走してください」とかずきさんに激励され、そしてみんなにお礼と行ってきますを言って、名水エイドを離れたのだった。背中を押してくれる声援を聞くと、僕はその上り坂を歩く分けにはいかなかった。元気に走るしかなかった。もちろん、歩くのとそうスピードは変わらない。しかし、僕は間違いなく走っていたのだ。少なくともその山道を抜けるまでは。

 

アスファルトの道に出ると、傾斜がだんだん激しくなってきた。名水までの直線を繋いだようなコースから一転し、緩やかにうねりが続く坂道だ。傾斜のキツイ上りは、とうとう歩きが混じるようになった。

 

87キロあたりにこうめさん、kenjiさんがいて何か食べるかと聞かれたが、いらないと首を振って先を急ぐ。ユニガーデンあたりが90キロ地点だ。通過は7時27分。少し暗くなってきた。制限時間まであと93分だ。キロ9分ならセーフ、それ以上だと危ない。モブログしている場合じゃない。そもそも手元が暗い。しかしここからが「くりやま100キロ」の正念場、最後の難所なのだ。ひたすら続く長い坂道を上っては下り、上っては下る。その間にもどんどん夜の帳は下りてくる。

 

僕に気がついた対向車が大きく避けて走り去る。ひとつ向こうの坂の頂上に現われた小さなヘッドライトが一度坂道に沈んでから、再び大きなサーチライトになって地上に浮かびあがり、僕を発見しては驚き、通りすぎていく。ときおり後ろから車が近づきスピードを緩め、ガンバってくださいあと○キロくらいですといって追い越していく。多分、撤収したエイドのスタッフを乗せた車だろう。必ず声をかけていってくれる。その度に、ありがとうございます大丈夫ですと返事をする。

 

ユニ東武GC角(93キロ地点)のエイドでは給水のみして前へ進んだ。もうあたりは、暗くなっている。ここからは、ほぼ下りが続くのだがなにしろ暗い。足元はほとんど見えなくなった。まさかこんなに遅くまで遠足を楽しもうとまでは、考えていなかったので懐中電灯は持たなかったのだ。ヤマダ電機を探したが、近くにはなかった。

 

進む方向の後ろから車が来ると路面状況が分かるが、対抗車の照らす路面は、凹凸が分かりにくい。それに、ここは試走したコースだが、あのときは明るい時間だった。行けども95キロ看板は見つからず、もしかして脇道に逸れてしまったのではと不安になった。とにかく真っ暗で周りの様子もよく分からない。本気でこうめさんを呼ぼうと、思っていたら、後ろから来た車が95キロ看板を闇夜に照らしてくれた。ああ、やっぱりこの道で良かったんだ。ここで道を逸れるようなことがあったら、間違いなくタイムオーバーである。いやそれどころかゴールに行けない。安心してその道を走れる。

 

少しスピードも出てきたか。気のせいか。そのまま走り続けると、エイドがあり水分を補給した。しかしその後の道が分かりにくい。角や分かれ道や分かりにくいところには、小さいながらも矢印入りの看板が要所要所に設置してあるのだが、それが非常に見にくくなってきた。いや見えない。だがありがたいことに最後のエイドのあとは、その矢印看板に電球がつき、点滅するようになったので、遠くからでも道筋が分かるようになった。これでもう安心だ。だが時計はボタンを押して発光させないと見えない。自分が正味キロ何分で今走っているのか、まったく分からないので不安はあったが、とにかく今使えるエネルギーとあと少しで根をあげそうな筋肉だけが頼りだ。

 

やがて、あと2キロ地点の看板が見えた。あと2キロだ。時計を発光させる。あと20分をもう切っている。車を運転して様子を見に来たgenさんが、まだ間に合うよと声をかけてくれた。とっくにゴールしているのに、わざわざ応援に来てくれたのか。栗山町役場を目指し、商店街を走る。genさんはときおり車でそばに来て、残りの距離やペースの指示をしてくれる。自分でも残りの距離とペースを考え、時計をにらむ。きわどいが多分大丈夫。何とか間に合う予感がする。

 

あ、しかし、赤信号に捕まってしまった。左右を見た。車は来ていない。やむを得ない、渡った。少し行くとまた信号に引っかかったが、ここもフライング気味に横断する。そして役場前の最後の道だ。ボランティアのおばさんだろうか、かけよってきて「まだ間に合うよ!最後のランナーだよ、元気にゴールしておいで」と励ましてくれた。

 

さ、最後のランナー?い、いつのまに僕は最後のランナーになってしまったんだろう。まだ後ろに20人くらいいたはずなのに。みんなリタイアしちゃったのか。赤々とかがり火がたかれた役場の駐車場を入っていくと、大勢の人がなんだかものすごく騒がしく出迎えてくれた。

 

お帰りなさいと、お疲れさまと、ご苦労さまと、それから僕が最終のランナーだというアナウンス。そして拍手と歓声。かっこわるい。いや、かっこいい?だって最後のランナーだ。照れる。恥ずかしい。だって、ビリだから。でもなんだか誇らしい。よし、ゴールだーとカメラを意識して、両手をあげエントランスに走り込むと、まわりの人が「あああーっ」と叫んだ。誰かが笑っている。

 

え?な、なんなんだ。ど、どうしたんだ。頭がパニックになる。すると誰かが隣りのほうを指して、そっちから!と言う。そこを見ると何やら帯のようなものが張ってあった。それがゴールテープであると分かるまでに3秒かかった。

コースにもどり、あらためて両手のガッツポーズでゴールテープを切りなおした。そして、ようやく歓喜のゴールだ!ゴールだあ!

 

時計は15時間59分22秒を示していた。だれかれと関係なく、その場にいた方がみんな笑顔で祝福してくれた。そして先にとっくにゴールしていた仲間達が僕のゴールを自分のことのように喜んでくれた。kuriさん、genさん、yagiさん、やすさんもいる。みんなハラハラと僕のゴールを見守ってくれたのだ。

 

申し訳ない。ごめん。すまん。遅くなって。一生懸命走ったんだけど。とにかく僕は、制限時間をめいっぱい使ってゴールしたのだった。そしてその結果が制限時間内最終ランナーというオマケ付き完走だったのである。

 

誰かが曰く、一番おいしいところを持っていきやがってという、反論のしようのない結末となったのだった。そして海宝さんと強く握手をして礼を言った。苦しくて楽しくて、そしてやっぱり楽しかったと。